東野圭吾さんの「分身」を考察します。
読み終わった方、一緒に余韻に浸りませんか。
読書感想文を書く方にも参考になれば幸いです。
ネタバレを含みます。
クローンなら性格は同じ?
基本的には、性格は生まれ持ったものから逃れることはできない、と以前「変身」を読んで感じました。
「分身」でもその考えは根底にあり、たとえ生まれた場所が違い、親が違っても、クローンであれば同じ好みをしているという考えにより、二人ともレモンが好きでした。
ただ、違いもあり、クローンの片方は丁寧な言葉遣いをし、もう片方ははじめて会う年上の人にもため口を使うのです。
やはり、親の育て方、境遇によって、表面に現れる行動は変わるのだと感じました。
一つ思ったのは、中身の性格は二人とも同じため、考えることが同じで、文章のみからクローンのどちらが考えていることなのかを区別するのが難しく、途中から同一人物のように感じてしまっていました。
そう作者が意図して書いていたりして。
クローン同士は分かり合える?
世の中、私たちは結局ひとりぼっちで生きています。
親、兄弟、信頼できる友達、どんなことでも受け入れてくれる人がいるとしても、自分の考えていることを自分と同程度、理解し共感しててくれる人は絶対にいませんよね。
でもクローンならどうでしょうか。
クローンなら誰よりも自分のことを理解してくれるのではないでしょうか。
この本のクローンは、クローンの元となった女性から拒絶されてしまいます。
同じ中身をしているのに、年齢、立場が違えばお互いに分かり合うことはできないのです。
では、同世代のクローン同士だったらどうでしょうか。
この本では、この答えは読者の想像に任せられています。
クローンの二人が会って同じ場所にいれば、書き分けが難しいですし、お互いに分かり合えたとしたら何も事が起こらずつまらないでしょうし、逆に分かり合えないなら救いがなく書いても仕方ないため、書かなかったのかもしれないと思いました。
私としては、クローン同士が親友となって救われて、それぞれが幸せを見つけるまで書いてほしかったなと思います。
親切には裏がある?
主人公のクローン2人には、それぞれ一緒に行動し助けてくれる親切な人が表れます。
無条件に助けてくれる人なんかいない、おかしいと思いながら読んでいましたが、やはり彼らは自身がやりたいことのために動いているだけで、たまたま主人公の側にいるだけでした。
そのことに気づいたクローンたちは、自分にとって味方であり、今後も味方となる彼らたちの助けを拒み、その後1人で行動することを選びます。
とっても厳しい状況の中にいるにも関わらず、唯一の味方である彼らを振り切り、1人で行動してしまうのは、絶対に良くないと感じます。
でも、心から自分を心配し助けてくれていた訳ではないことにショックを受け、主人公は自ら助けを拒否してしまうのです。
頭ではこうするべきだと分かっていても、どうしても精神的に無理という状態なのです。
こういう心の揺れ動きを読むのが楽しいです。
一時の考えの甘さが皆を不幸にする
この話はある2人が起こした過ちから始まっています。
彼らが、普通に何もせず暮らしていれば、こんな不幸は起こらなかったのです。
客観的に悪いとされること、やめた方が良いと人が言うことは、絶対にすべきではありません。
自分のエゴでしてしまったことは、後に自分にはね返ってきますし、自分だけにはね返ってくるだけでなく、周りの人をも巻き込みます。
そのことがよく分かる話でした。
感想
東野圭吾さんの本は大好きで、いろいろ読んでいますが、「分身」は正直あまり感動できませんでした。
「変身」や「秘密」なんかでは、鳥肌が立ったり、泣いたりしましたが、ちょっと今回はあんまりでした。
どうなっていくのかワクワクする感覚はありましたが、クローン目線で書かれているのみのため、クローンを作ってしまった側の苦悩は推測することしかできず、もの足りなかったです。
主人公の生い立ちも比較的さらっと書かれているのみなので、あまり感情移入できず、主人公が泣いているのに、私はどこか冷めた感情で見てしまうのがもったいなかったです。
親から愛されない悩みや、親が急死する辛さが分かる方は、とても共感できる本だと思います。
親が急死したにも関わらず、かなりアクティブに行動する主人公は強いなと思います。
やはり、この話は、問題が解決せず終わってしまうのでなんだかなーと思います。
黒幕は成敗されたのか、黒幕の周りの人は逃げることができたのか、クローンを作りたいという考えを捨てることができたのか、主人公が歌手になることは諦めるしかないのか、恋愛の方はどうなるのかなど、解決していないことばかりです。
というか、解決したと言えることは一つもありません。
ぼろくそに書いてしまいましたが、読む間は夜中2時まで没頭し、どうなるのか知りたくてパラパラ先をめくって自分でネタバレをくらったりなど、とても楽しく読みました。